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【内藤廣設計 紀尾井清堂】建築士の視座で「けんちく」を見てみよう

建築士の視座で「けんちく」を見てみよう

内藤廣設計   

紀尾井清堂

ただの建築好き、吉田の建築巡りに
設計の専門家、中丸さんにお付き合いいただく建築旅。

気になる建築を今度見に行くけど、どう楽しめばいいの?
話題のここ、行ってみたけど何がそんなにすごかったの?
と思ったことありませんか?

専門家はどんなところを見て、何を面白がっているのか。

専門家の視座で「けんちく」を見てみようシリーズ、
今回は現在、Instagramを騒がす『内藤廣 紀尾井清堂』を巡ってきました。

紀尾井清堂外観

About me

吉田 優香

吉田 優香

通訳案内士
Showcase Tokyo代表
ガイド免許取得後、国立新美術館を初めて訪れた際、波打つファサードから差し込む透き通った夢見心地な光に魅了されて以来建築LOVE。

建築の街シカゴで育ち
大学では日本民俗史を専攻。日本建築史は必須科目だったが、古代建築物の平面構成の授業があまりに退屈で早々に断念。「建築なんて知らなくても生きていけるわ」と悪態ついていた20年前の自分を説教したい。

好きな建築は
旧井上房一郎邸

4月7日 曇り 13:30 紀尾井清堂 見学会に参加しました。
紀尾井町通りの八重桜がもうすぐ咲きそうです。

ガラスに囲まれたコンクリートが浮いているようにも見えるこの建物。
前を通り過ぎる人々も不思議そうに眺めています。

早速、半地下ピロティ内で柱をまじまじと見つめる中丸さんを発見しました。

紀尾井清堂本実柱

ピロティ

「すごいですね」
  洞窟のようにひんやりした空間。
  自然の色味に包まれたピロティはどこか厳かさが感じられます。

  まず目に入るのは建物を支える4本の太い柱。
  足元は四面体なのですが、
  それが徐々にねじれ、天井に届くころには六面体に変化していきます。

「上部を支える柱の断面は六角形の末広がりの形状が合理的です」と中丸さん。
 なるほど、形がかっこいいだけの柱ではなかったんですね…!

「天井にも注目です」

 天井…?

「コンクリートボックスを表現したかったので、ピロティの天井は凹凸のない無垢のコンクリートにしたかった。
通常、2階床梁は床下につくので1階天井から突き出て見えるものですが、逆張りにして見せないという工夫がみられます。
2階の床梁にはテンションをかけたワイヤーが仕込まれていて、強度も確保しているようですね」
 天井はスベスベになるべくしてなるということですか…。  

この特徴のある柱の表面をよく見るとコンクリートに木目が見えます。
中丸さんのお話にはよく出てくる本実(ほんざね、と読みます)加工で杉板の型枠にコンクリートを流し込むことで木目が現れます。
それがこの微妙なねじれにピタリと合っているのをみて唸る中丸さん。

「型もねじれている必要があったでしょうね。
 所々節の抜けた型枠のコンクリートが出っぱっているところ(たい焼きの羽根のように薄く出ているところ)や細くコンクリートが出ている出目地が面白いですね。
 出目地は凹目地に比べると作るのは手間がかかるんですよ」

ピロティ 空間の使い方

すでに有名すぎる話ですが、この紀尾井清堂は「用途がない」建物です。

倫理研究所の施設を担当するのは2回目の内藤廣氏は
「思ったように造ってください、機能はそれに合わせてあとから考えますから」との注文に、
洞窟のようなピロティと圧巻の吹き抜けの上部階を提案しました。

どんな用途にも使えるように
ピロティ奥には調理設備を組み込めるバーカウンターがあったり、
入口の自動ドアの両サイドが全面取り外せるようになっていて
搬入口の役割も果たします。

紀尾井清堂カウンター

現在、ここには東日本大震災の復興のシンボルとなった
陸前高田の一本松が展示されていますが、
その際も窓を全て取り外して搬入したようです…!

床や壁には石州瓦の工房の棚板として使われていた廃材が使われています。

表現の異なる美しい光沢を放つタイルにも一工夫が。
電源が床のタイルに違和感なくさりげなく混ざっています。
(まだ行かれていない方はぜひ探してみてください!)

これを見つけてから展示物の邪魔をしない細やかな配慮が他にもあるのか探してみたくなりました。

床を眺めていると突如、キレイな虹が!

内藤さんのいう、神様のご褒美というやつですね
(中丸さんのミキモト銀座4丁目本店ブログ参照)

意図して作られたものではなく、たまたま居合わせた時間と天候、
光の角度ガラスの反射によってみられる一瞬のプレゼントでした。

@yuki_architecturelover

外部階段

「三面をピッタリと合わせるのはかなり高度な職人技です」

上部階に上がるために一旦外へ出ます。

間近でコンクリートとガラスの間の支持材の軽快さを眺めたり
階段の細かいディテールに唸ってみたり。
興奮しすぎて何度もガラスに頭をぶつけそうになりました。

「外部にガラスを巡らせてコンクリートをラッピングする感じが面白いですね。」

「ガラスとコンクリートの隙間は風を通そうとしてるんじゃないかな。
せんだいメディアテークのファサードを連想します。」

紀尾井清堂外観2

2階に潜入

紀尾井清堂 内部

東京では数々の和菓子店とらやの店舗や銀座線渋谷駅のスペーシーなホームをデザインされたことで有名な内藤廣さん。

長い間、ご自身の建築には「作家性」を消したいとおっしゃっていますが、
建物に入った瞬間すぐに内藤建築だとわかってしまう空気があります。

無垢材で構成されている壁や引き戸
テンポよく並んだ丸く赤っぽいダウンライトの光と
トップライトが空間を包み込みます。

「外壁がガラススクリーンで覆われている一方で、明かりを取り入れる窓は基本的にない。
自然光はトップライトのみ、というところが潔い!」

階段の秘密

圧巻の吹き抜けとさまざまな方向につながる階段は
エッシャーのだまし絵のような面白さがあります。

しかも比較的長いのになんだか登りやすくて疲れない気が。

すると中丸さんからクイズ。

「この階段が空間をドラマチックに見せている理由があるのですが
 分かりますか?」

 …一つ一つの階段の高さが関係しているとかですか…?と答えると

「踊り場がないんですよ。」

            !!!

 ほんと!!踊り場ないです!

  美しい一直線が実現できたのにはしっかり理由があったのですね。

「踊り場は階高4m以上の時に必要になります。
 ここは 3.4mにおさめているので踊り場は無くても良いのです。
 一般的なオフィスと比べてもかなり天井が低いですね。」

  階高の低さが人に安心感を与える効果があるのはカプセルタワーでも経験済み。
 それに加えて中央に大きな吹き抜け空間があることでゆとりすら感じます。

丁寧な仕事がいい空間を作る

「こういうことですよね…」
と中丸さんが見つめる先に目をやると、柱と床の間に隙間が見えます。

「ここ見てください。巾木がないでしょ?
神経を使うところを丁寧に仕上げています。
普通は見せたがらない、隠したがるところ」

ほんとだ!巾木は粗を隠すためにも使われるんですね。 
(ルンバが激突してもいいように、だけではなく…)

 

 

トップライトも忘れてはいけません。

「 ピロティの柱 同様、打ち放しは ”型枠命”    です!

トップライトの上に行くに従ってコンクリートの幅が狭くなっています。しかも四角が丸になるため型枠はねじれる必要がありますね。
トップライトの梁の交差部の45度の型枠も、
ディテールにこだわり抜いた仕事ぶりが凄まじいです。

 丁寧な仕事の積み重ねがいい空間を作るんですよね」

 こういった細かいこだわりの集まりを感じた時に内藤バイブスは伝わるのですね!

 大変お勉強になりました。

けんちく巡りのススメ

中丸さんとの建築旅、いかがでしたか?

「建築」と聞くとなんだか難しそうに感じてしまう方も多いと思いますが、建築の楽しみ方は人それぞれであっていいと思うのです。

難しそうと思う方はおそらく自分の感じていることは正しいのか答え合わせをしようとしているし、正しい建築の見方なんてものを知ろうとしているように思います。

建築をアートだと言うとご専門の方からは
「それは違う」と怒られそうですが、気楽にアートとして楽しんで同時に技術力の高さなどのハード面を知ることで
建築を一層深く楽しむことができます。

「建築」が硬く感じるのならせめて書き方を
「けんちく」にしてもっとやわらかくポップなイメージに変換して自分が面白いと思ったところだけ楽しんだらいいのではないでしょうか?

中丸さんの視座は経験と知識とセンスに基づくものなので
一般的には知られていない世界の話も多いです。

逆に、素人発想が専門家の気づきになることもあるだろうと今回も中丸さんの懐の深さに甘えて好き勝手感想を言わせていただきました。

お付き合い ありがとうございました!

 

中丸さん版、「紀尾井清堂」ブログもぜひご覧ください!

紀尾井清堂 設計:内藤廣
設計者から見た”こだわり建築”シリーズ

 

紀尾井清堂

〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3

見学はこちらから(倫理研究所HP )

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