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「ミキモト銀座本店」 銀座のど真ん中に輝く さざ波ふたつ その1

設計者から見た”こだわり建築”シリーズ

「ミキモト銀座4丁目本店」 

銀座のど真ん中に輝くさざ波ふたつ その1

設計:内藤廣、KAJIMA DESIGN

About me

中丸 泰生

中丸 泰生

1956年神奈川県生まれ。
横浜国立大学大学院建築学卒業。一級建築士。 
全国通訳案内士(英語)

38年間にわたり組織設計事務所で国内国外の建築設計・監理に従事(米国、英国、中国他)

好きな建築:
ナショナルギャラリー東館(ワシントンDC、USA、I.M.ペイ)、キンベル美術館(フォートワース、USA、L.カーン)、金沢21世紀美術館(SANAA)

趣味:
バンド活動(バンマス、エレキベース、分野:ジャズなど)

建築専門家向けツアー、企業研修などで活躍中

銀座の大通り、朝夕2回壁面に現れる鳥羽の海。
いかにイメージを具現化したか、またそれを裏付ける
膨大で緻密な設計作業と作り上げた職人技に迫ります。
そして工事中の仮囲いの中では何が行われているのかも探ります。

ファサードイメージの具現化方法

内藤廣氏設計のミキモト銀座本店は銀座の建物の中でも一番好きな建物の1つです。

この建物の前を通るたびにいつもついじっくりと見入ってしまいます。

何故かと言うとそのファサードが銀座でも唯一の構成でその成り立ちを知れば知るほどイメージを具現化するアイデアや検討プロセスなどの深いこだわりとそれを支えたクラフトマンシップが目に浮かぶからです

今回のミキモト本店のファサード設計において内藤氏は何をイメージしたのでしょうか。

イメージは三重県鳥羽の海、太陽に輝く鳥羽のさざ波。
勿論鳥羽はミキモト発祥の地。
その因縁深きミキモトの建物のイメージとして“鳥羽の海のさざ波を壁面に再現する事”を目指しました。 

朝、夕一日2回 壁面に鳥羽のさざ波が現れ壁面は海になります。
そして室内には反射光が天井にも映り込みます。
内藤氏の出世作“海の博物館”の設計時に現場に赴く際にいつも眺め励まされた鳥羽の海。

そしてそれを表現するために実に38,000枚ものガラスピースによって構成されたファサードを作り上げました。

ではイメージをどう具現化したのでしょうか。

“キラキラと輝く海のイメージ”をどう作り上げるか。
素材をガラスで表現する事を決めた上でガラスの選定、加工方法、製作方法等種々の検討を行いました。

ガラスと言ってもいろいろ有ります。高透過ガラス、溶融ガラス、光学ガラス等の中から今回はフロートガラスを選定。

強度チェックのために試験したピースが数十ヶ。 

38,000枚のガラスピースと言っても実感がなかなか湧きませんが、1ピースの大きさが幅70mmx長280mmx厚21mm。ちなみにガラスで覆われているファサード部分が約750㎡程(目測)なので1m四方に50枚程のガラスピースが取付けられている事になります。
ガラスピース全部を作るのにどの位の手間が掛かったのでしょうか。
新建築誌の写真には、工場でガラスピースをユニットに取付ける若い職人の姿が載っていますがこうした努力の集積なのです。

ガラスピースの切り口を磨かずとガラスの割り肌として水面の様に光を反射するように仕上げていますがこれは同時に加工作業の合理化も図っています。
製作にあたって原寸レベルの模型、実物大サンプルのチェックを勿論行っている事でしょう。
また、ユニット化による組み立て方法の採用は現場での施工性考えての事です。
                                                                                            更にディテールとしてガラス面を3°内側に傾むけ水滴が外側に溢れにくい配慮を施し、ガラスピース38,000枚を高精度に組立てました。                                         取付を支える職人の丹精と熱意が銀座で唯一無二のファサードに結集しました。

質の高い建築を作り上げるには

内藤氏は質の高い空間、精緻さに定評がありますが、質の高い建築を作り上げるにはどうしているのでしょうか。

設計の成果品はで練りに錬った案を施工業者に伝える手段として作成した図面(=実施設計図)であり、それが施工の基本となるのは当然ですが、一方で内藤氏はそもそも、図面では伝えたいものの4割位しか表現出来ないとも言っています。
つまり3次元の建物を2次元の図面で表現するのはしょせん限界があると言います。

たった4割しか表現できないと言う少なさに驚くと共に、では残りの6割を埋めるにはどうするのでしょうか。

実は設計は図面を引いたら設計者の役割はそれで終わりで、後は施工業者が建物を作ってくれる、ではないのです。

それは工事期間中の仮囲いの中で進んでいます。
工事段階でさらに新たな詳細検討、見直し、修正が行われ更に残り6割を詰めていくのです。

言ってみれば表現したいことを最終的に確認し具現化するプロセスが工事段階とも言えます。
同時にコスト、時間、天候等各種の制約も考慮しなくてはなりません。

また一方施工業者も淡々と図面通りのものを作るのではないのです。まして大先生の作品となれば施工会社も当然力を入れてきます。

以前アトリエ出身の設計者に聞いた事があるのですが、“現場に入ってもう一度設計をやり直す位の気持ちで取り組んだ”とはさすがに今は行かなくなりましたが、監理次第では建物の印象が全く異なってきます。その位大切な期間なのです。

ちなみに工事段階での設計事務所の様々な指示、確認業務は“監理業務”といい、施工業者の行う工程やコスト、安全確保などの業務は“管理業務”と言い区別しています。共に読みが“カンリ”なのでこの2つの業務はその漢字の違いから前者を“サラカン”後者を“タケカン”と読んでいます。

現場工事期間中の大切な作業とは

それでは実際に現場では何が起こっているのでしょうか。設計図に表現仕切れなかった所の詳細検討、工事側からの提案、制作上の問題点、選択、色彩、性能、仕上げ選択等さらなる検討作業が待っています。
また、現場では実際の工事にあたって“施工図”と言うものを作ります。工事業者が設計者作成の実施図面を元に実際の職人向けに作るものです。

ここで実際の施工上の種々の問題、選択肢の検討がなされます。

コンクリート打放しの建築の場合ならば型枠のミリ単位での型枠の割り付け、ピーコンの位置など全ての部位について決めていきます。

施工図のボリュームは基礎ならば杭、フーチング、鉄筋等各工事別に書かれるため設計事務所の作成する実施図面の恐らく10倍や20倍ではきかないくらいの枚数を作成していきます。
各工事を担当する職人はその施工図を元に実際の工事を行っていきます。
また、造付け家具や特注金物等全ての製作ものにも製作図が書かれます。

今回では特に外観のガラスピースの加工方法、取付け方について強度は勿論、作業性、現場での取付け方法、等に検討を重ねた筈です。

そうした段階で施工上、製作上の調整や問題点の解決、更なるディテールの検討、メンテナンス性や銀座の敷地での制約された中での施工性も踏まえた検討が加えられて行きます。

また併せてモックアップ(原寸大サンプル)等のも使って、色味、施工性等更なる検討を行い建物のグレードアップが図られます。

この段階での検討が甘かったり、更なる詰めに十分手が回らなかったりすると
出来た後で「うん?」となってしまう箇所が出てしまいますので手が抜けません。

従って設計者にとって建物が出来ていく様は実物大の模型が出来ていくような感覚であり、また予想通りと予想外が交錯する場でもあるのです。

 これだけ検討に検討を重ねたこの建築の完成形は内藤氏の思いをどの位表現出来たのだろうか。

内藤氏は著書で、今まで設計したものは60点くらいしか取れてこなかったと言っています。

内藤氏をしてもそこまで厳しいのかと驚くと共に設計作業の奥深さ、終わりのないスタディーなど設計者の思いの深さに触れる思いです。

だからこそ私はこの建物の前に立つとついついこうした事を想像してしまい立ち止まってしまうのです。

設計の神様

もう一つ同じく内藤氏の設計に「島根県芸術文化センター」(2005年)があります。                                   この建物の設計では作成した図面はなんと実施設計図1,400枚。工事全体で一体何枚の図面が書かれたのでしょうか。まさに図面との格闘。記憶力の限界ではと内藤氏は言っています。

この建築では同じ素材を徹底して繰り返し使用し独自の建築美を創造、屋根瓦を壁にも使用し予想外の効果が現れました。 土色の瓦が天候により青や赤に変化した表情を見せたのです

屋根材である石州瓦を壁にも使った事により設計者も予想しなかった多彩な表情が得られました。一番驚いたのは瓦職人。この感動はまさに設計者冥利に尽きると思います。

内藤氏は検討に検討を重ねて建築を作っていると、ある時建築の神様がご褒美を下さると述懐しています。そんな内藤氏の言葉を思いだし設計作業の厳しさと完成時の達成感を想像し胸が熱くなります。

以下次回に続く

ミキモト銀座4丁目本店

〒104-0061 東京都中央区銀座4丁目5−5
https://www.mikimoto.com/jp_jp/ginza-main-store

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