fbpx

中銀グリーンカプセルタワープロジェクト

中銀グリーンカプセルタワー
プロジェクト

1970年代の東京を投影した名建築、
中銀カプセルタワーの保存を望むファンは多い。

コロナウィルスの世界的流行により
インバウンド旅行者が見込めない現在も
国内メディアでの露出や日本語ツアーの参加者の多さからも
関心度はますます高くなっていることがわかる。

しかし現状は 不動産会社がカプセルの売買を進め
昨年末に80%の議決権を確保。
敷地売却が決まり、事実上 取り壊しは可能な状態になっている。

親戚のような存在だった丹下健三作、
築地の電通本社ビル(電通テックビル)の取り壊しも始まり
カプセルタワーファンとしては今後 建物がどうなってしまうのか
落ち着かない毎日が続く。

そんな時に出会ってしまった。

衝撃の緑のカプセルタワー

とある建築学生の卒業制作『中銀カプセルタワービルの緑化メタモルフォーゼ』。
カプセルタワー再生を望む一ファンとしては
前のめりにならざるを得ない話だった。

いてもたってもいられなった私は、
カプセルタワー再生案を計画された小浦さんに突撃。
お話を聞かせていただいた。

※今回の話はあくまでも卒業計画の紹介で、
実際にこの計画が進んでいるわけではありません。

目次 ====================

小浦さんとは

  • 20213月工学院大学 建築学部 まちづくり学科卒業
  • 都市計画の視点から建築を見ている人
  • 環境問題に興味あり
  • 研究のテーマは
    『建物緑化による都心部での人々への緑の恩恵と、生物多様性の確保 ~メタボリズムに取り込む緑化~
    大学最後の2020年、コロナ禍で過ごしたからこそ生まれた、
    まさに時代に合ったメタボリズム案
  • 小浦さん曰く、
    「都心部での生物多様性の確保をテーマに調べていた。
    都心部は郊外と違い、敷地が少ない分、建物で緑化することが有効だとわかった。
    生物多様性保存のためにはただ単に緑化を行えば良いのではなく、取り入れるべき工夫点がある。」

植物ありきで保存を考える

私がこんなにも緑に反応してしまったのには理由があった。

私たちShowcase Tokyo
中銀カプセル英語ツアーで紹介すると一番盛り上がる写真がある。

それがこちら。

@Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project 

実際は使われていない/使用できない廃墟カプセルの例として見せるものなのだが、
廃墟の中にたくましい生命力を感じるカプセルの一室。

140個中、一つくらい こんなグリーンハウスカプセルあってもいいと思う!」と
いつもとてもいい反応があるのだ。 

あまりにも肯定的な意見が多いので、
もしカプセルタワーが再生されるとなれば、
単純な装飾ではない「緑」は利用者にとって必要になるんだろうと想像していた。

とはいえ、私の頭の中で緑が建物の保存と直接繋がることはなく
建物をどうしたら保存できるか、
どう変えられるだろうか、
ばかり注目していた私には
小浦さんの
「建物を緑を作るハブにする」という
全く違った角度からの視点が新鮮だった。

では、建物を緑化することが目的であればどんな建物でもよかったのだろうか?
中銀カプセルタワーを選んだ理由を聞くと

「正直なところ、中銀カプセルタワーでなくても良かった。
 ただ、周辺環境や建物の形状から中銀カプセルタワービルはものすごく適していると考えた。」

との回答だった。

小浦さんがやりたいこと、それは生物多様性保全

緑いっぱいの浜離宮はわずか1キロ足らずの距離、
東京湾も広大な緑が広がる皇居も近い。
それぞれの場所に鳥や虫が周辺緑地まで種子を運び、
生態系ネットワークが形成できる。
その上、地域に根ざした自生種の植物を育てることは、
周辺環境に悪影響を及ぼさず育ちやすいのだという。

さらにはカプセルタワーのデコボコデザインは植生するのにちょうどいいらしい。
建物の1階だけの緑化にとどまらず、
平面的にも垂直にもつながる複数階層の緑化も可能になる。
そこに環境の多様化により鳥や虫を呼び込んでいくのだ。

 

「メタボリズムの本来の考え方にある、
未来へ向けて成長するという面でも緑化という試みは、
現在の日本の時代背景や環境にあっていると思った。」
と彼女はいう。

メタボリズムに基づくカプセルの更新を通し、
用途ごとの緑化カプセルに交換していく。
カプセルタワーの周辺でも敷地緑化を行うことも考えている。

新カプセルの特徴

では さっそく新しくなったところを見てみよう。

現在の住居やオフィスの用途以外に、
ホテル、パーキングエリア(側を通るの首都高からのドライバーの休憩所として)
そして飲食店が追加されている。

住居カプセルとホテルカプセル

新プランでは 今まで開かなかった窓問題も解決。
外へつながることでカプセルから外気や緑にふれることも可能になり、
窓を開けたら鳥に挨拶!のカプセルライフが現実のものに。

共同オフィスカプセル

オフィスは現在のカプセルのサイズに加えて、
カプセル二部屋分の大きめカプセルも登場。
こちらでも庭に出られるようにするなど工夫が加えられた。

店舗カプセル

飲食店はコミュニティスペースの意味合いもあり、
住民だけのクローズドなコミュニティをさらに広く外部の人にも広げる試み。

既にある住民と保存をサポートしたい個人や企業を
より強く繋げる場にもなりそうだ。

庭園カプセル

カプセルまるまる庭園型には子供たちが遊べるスペースと
飲食店や住民のホームガーデニングにも使えるカプセルがある。

中銀カプセル養蜂プロジェクトも始められるかも!

屋上カプセル

待望の屋上は二つのタワーをつなげ、自由に歩き回れるようにした。

公共利用の小庭園カプセルからはハシゴで垂直に繋がっていて、
最終的に屋上に登ることも可能。
ここでビールが飲めたら気持ちよく酔えそう!

 

インテリアはどうなってる?

今回は基本的に外観の変化が大きいが、内部は何か変わるのか?
オリジナルの家具、デザインは踏襲されないのか?
という点も気になったので聞いてみた。

「 2020年末時点で約25カプセルが住居として、
30カプセルがオフィスとして使われていた。
このコンセプトは引き継ぐ。」

また、

「一番の見どころは自由さ。
現在も住民の方がリノベしてカプセルの生活を楽しんでいる。

時代に合わせ個人がカプセルを更新していくイメージ。」

とはいえ、全くオリジナルのデザインがなくなるのも寂しいので
オフィスはあえてオリジナルデザインを継承するそうだ。

ワークフロムカプセル

「2020 年のコロナ禍で自分の考え方や人々の働き方が大きく変わったと思う。
そのため、リモート会議ができる 個別のカプセルオフィスや、
同じ職場の人同士で会議に利用できる 共同のカプセルオフィスを設けるなど、
働き方に合わせて変化させた。 」

首都高速道路が近い点もうまく使い、
カプセルタワーで仕事をした後そのまま旅行にでかけるなど、
自由な使い方ができるように、
個別のカプセルオフィスはホテル利用もできるように工夫した。

日本ではリモートワークが難しい文化、業種も多く
コロナ禍でも在宅勤務は主流にはなっていない。
調べによると今年に入ってからの自粛期間でも
全体の約25%の企業しかリモートワークを取り入れられていない。

と同時に一部大企業ではリモートワークが推進され
オフィスの必要性が少なくなりビルを売りに出しているところを見ると、
日本でも固定のオフィスとの関係性も徐々に変わっていくのだろう。

水やりは?どんな植物を植える??

あえて虫、鳥を連れてくるという発想はとてもワクワクするのだが、
今のカプセルの雨漏りの現状を知っている自分としては
どうしても灌水による雨漏りが気になってしまう。

小浦さんによると、
「虫や水を受け止めるのはカプセルというよりも木の種類でカバーする」という。

緑のこだわりポイントも多い。
単純に在来種を植えるだけではなく、
虫、鳥たちに馴染みの深い、
皇居や浜離宮にある植物を植えることで
鳥たちが移動しやすくなるのだという。

タワー上部に行くにしたがい、
耐風性の強いツル科やコケ植物を育てる。
それぞれの季節に見頃を迎える木々や花々も植える予定だ。
屋上緑化の事例や調査から、
木は高いもので 4m 程まで成長すると想定されるという。
人の手が届かないところには自動灌水システムを使う。

浜離宮のこまめなメンテナンスや
外来種をコントロールする方法も参考になりそうだ。
人口土地の上でも土壌環境が整い、
明治神宮のように最初のプランがしっかりしていれば、
数十年後には(本物の)森タワーが実現するかもしれない。


ちなみに…
黒川の中銀カプセルタワーの案では、
もしカプセルを取り外しできた場合、
タワーという幹から種子が散らばり
また新しい土地でカプセルが育つような
有機的な、ノマド的な生き方の構想があった。

今回の案には特別このアイディアは盛り込まれなかったが、
実際に緑のカプセルが子孫を増やすべく移動できたら、と考えるとなお楽しい。

小浦さんのカプセルタワー評価

「初めてカプセルタワーを見た時は
カプセルがコアと一つの面でしか接着していないことや、
周囲と比べてあまりにも異質で正直不安すら感じた。

今建築を学んでから改めて見返す
とスクラプアンドビルドが主流な現代、
ストック型アイディアの先駆けとなった建物だと思うので
ぜひ残して欲しいと思う。


今回の計画ではカプセルの用途によっては

これまでのカプセルより大きなものもたくさんある。

しかし、このフォルムあってこそのカプセルタワーだと思うので、
全体的にあまり変わらないようにカプセルの形や配置は慎重に決めた。

どういう形であれ、
メタボリズムという思想が現れた唯一無二の建築で
残さなければならない建築だと思う。」

まとめ

現代を生きる学生が東京の将来を考えたメタボリズム案に
とてもいい刺激をもらった。

ビルの緑化は街中でもよく見られるようになってきたが、
単純に見た目デザイン面がいいからの緑化ではなく、
それぞれ、周囲の環境を考えた長期的視点はどこにあるのか
知りたくなった。

また、視点を少しずらすことで可能性が広がることも改めて実感した。

自分と立場や関心の違う人の発想が
自分にとっても使えるアイディアであるかもしれない。

さらには、今までのダメをOKにすることで(今回は鳥、虫ウェルカムにするなど)
できるヒントは転がっているのかもしれない。

 

今のグレーのカプセルタワーが緑になると想像するとかなり楽しい。
緑の成長は建物の成長であり、自分も一緒に楽しめるのは
なかなか豊かな建築の愛で方ではないか。

こういった楽しい提案が建物保存に対する
人々の関心を高められたら素晴らしいと思う。

Share on facebook
Facebook
Share on twitter
Twitter
About me
Yuka Yoshida
Yuka Yoshida

Showcase Tokyo代表 全国通訳案内士(英語)
7年間の豪旅行会社でのツアーリーダーとしての修行を経て、フリーランスに転向。
2014年から都内でインバウンド向け建築ツアーをスタート。
大学では日本民俗学専攻。今の仕事に少しは役立っているような気がする。

好きな建築:国立新美術館、旧井上房一郎邸、浜松市秋野不矩美術館、ダム全般

今年の目標:また山登りできる筋力をつけること(ビールはやめない)

オススメ記事
Comments are closed.